舟敷作り立る図 二種
木の精を祭る事終りて、其大概作りたる
舟敷を山中より出し、住居のかたハらに移し
置て、それより作り立るの工夫にかゝる也、
まつ前の図のことくに敷の両縁のうちに
横木をいれ、内へしほまさるよふになし、また
舳・艫に筵よふの物をあつく巻き、ひゝの入り
損せさるよふにして、幾日といふ
事なく日にさらし置く也、その木のよくーー乾きか
たまりてゆかミくるいとふの出さるをまち、夫より
後の図の如く地に角木をならへしき、其上に
敷をすへ、うちに大小の石を入れ、すハりの穏か
なるよふになし、さて水を十分にもる也、此水の
おもむきにて、舳・艫両縁より初めすへて形ちの
善悪を考へ、其外水上往来の遅速、波濤を
渉るの便利、あるひは出岸着岸、またハ陸にあけおろ
しの事とふまて、子細に舟の様子を
熟慮して、其高低曲直を漸々に削りなをす
なり、すへて夷人の境いまた規矩といふものも
あらす、唯かゝる工夫のミにて作り出せるゆへ、
心を労し、思を焦し、数月をかさぬるにあらすし
ては、敷一つを作り得る事もならさる也、その
うち月日を重ね、纔に作りたる数にも彼是の
便利あしけれハ、徒にすつるもありて、其辛苦を
きハむる事言葉に尽しかたし、
舟敷を山中より出し、住居のかたハらに移し
置て、それより作り立るの工夫にかゝる也、
まつ前の図のことくに敷の両縁のうちに
横木をいれ、内へしほまさるよふになし、また
舳・艫に筵よふの物をあつく巻き、ひゝの入り
損せさるよふにして、幾日といふ
事なく日にさらし置く也、その木のよくーー乾きか
たまりてゆかミくるいとふの出さるをまち、夫より
後の図の如く地に角木をならへしき、其上に
敷をすへ、うちに大小の石を入れ、すハりの穏か
なるよふになし、さて水を十分にもる也、此水の
おもむきにて、舳・艫両縁より初めすへて形ちの
善悪を考へ、其外水上往来の遅速、波濤を
渉るの便利、あるひは出岸着岸、またハ陸にあけおろ
しの事とふまて、子細に舟の様子を
熟慮して、其高低曲直を漸々に削りなをす
なり、すへて夷人の境いまた規矩といふものも
あらす、唯かゝる工夫のミにて作り出せるゆへ、
心を労し、思を焦し、数月をかさぬるにあらすし
ては、敷一つを作り得る事もならさる也、その
うち月日を重ね、纔に作りたる数にも彼是の
便利あしけれハ、徒にすつるもありて、其辛苦を
きハむる事言葉に尽しかたし、
☆ 木の霊をまつる儀礼が終わると、おおよそできあがった船体を山からおろして、家のそばに移しておく。そうして完成までの工程にとりかかるのである。
まず、前の図のように、船体の両縁の内側に横木をいれて内側に船体がしぼまないようにし、またみよしとともには筵のようなものを厚く巻いてひびがはいって壊れないように手当てをしておいていくにちも日にさらしておくのである。そしてその木がよく乾燥してゆがみや狂いが出なくなるのをまつ。それから、後の図のように、地面に角材を並べて敷いてその上に船体を置きそしてその中に大小の石ををいれてすわりを整えてから水を十分にいれるのである。
この水の状態によって、みよしやとも、両側の縁などをは12じめ、船体すべての形を考え、そのほか水上往来の早さ、波をこえる性能、あるいは岸を離れるときや着岸、おかへ上げたりおろしたりといったことにまで、ことこまかに舟の状態を熟慮し、船体の高さかげんや曲がりなどを少しずつ削りなおしていくのである。
アイヌの人びとには物差しというものがないので、こういう工夫だけで舟を造り上げていくため、心労やいろいろ考えること数ヶ月にもおよぶことなくしては、船体ひとつを造りだすこともできないのである。そうして月日を重ねてわずかに造った数のうちにもいろいろの不具合があれば、捨ててしまうのもあるようにその辛苦をきわめること、実にことばにいいつくすことは出来ない。
まず、前の図のように、船体の両縁の内側に横木をいれて内側に船体がしぼまないようにし、またみよしとともには筵のようなものを厚く巻いてひびがはいって壊れないように手当てをしておいていくにちも日にさらしておくのである。そしてその木がよく乾燥してゆがみや狂いが出なくなるのをまつ。それから、後の図のように、地面に角材を並べて敷いてその上に船体を置きそしてその中に大小の石ををいれてすわりを整えてから水を十分にいれるのである。
この水の状態によって、みよしやとも、両側の縁などをは12じめ、船体すべての形を考え、そのほか水上往来の早さ、波をこえる性能、あるいは岸を離れるときや着岸、おかへ上げたりおろしたりといったことにまで、ことこまかに舟の状態を熟慮し、船体の高さかげんや曲がりなどを少しずつ削りなおしていくのである。
アイヌの人びとには物差しというものがないので、こういう工夫だけで舟を造り上げていくため、心労やいろいろ考えること数ヶ月にもおよぶことなくしては、船体ひとつを造りだすこともできないのである。そうして月日を重ねてわずかに造った数のうちにもいろいろの不具合があれば、捨ててしまうのもあるようにその辛苦をきわめること、実にことばにいいつくすことは出来ない。

































































































